睡眠時無呼吸はなぜ治療しなければならないのか?
自覚症状のない睡眠時無呼吸症候群は治療する必要があるのか?
日中の眠気や起床時の疲労感などの自覚症状が全くないにもかかわらず、家族からいびきや無呼吸を指摘され、検査をしてみると睡眠時無呼吸症候群と診断される方がまれにいらっしゃいます。果たして自覚症状がないのに、CPAP(シーパップ)などで治療しなければならないのでしょうか。
私は治療をしたほうがいいかどうかは、「治療の目的による」と考えています。
睡眠時無呼吸症候群を治療する目的は、
①自覚症状のために治療する。
②合併症(基礎疾患)の管理のために治療する。
③予防や生命予後のために治療する。
④事故のリスクを考えて治療する。
というように考えられています。
CPAPは根治的な治療方法でなないため、ずっと使っていればいつか睡眠時無呼吸症候群ではよくなるというものではありません。もちろん過度な肥満がある方は減量を平行して行えば、CPAPをやめられるかもしれませんが、もともと気道の狭い方などは基本的に継続が必要になります。治療をずっと継続していくのはけっこう大変です。ましてや自覚症状がない場合にはなおさらやる気がでないかもしれません。今回は「あなた」にとっての「治療の目的」はなんなのかを考えていきましょう。
①自覚症状のために治療する方: 眠気、疲労、いびきの指摘などの症状がある場合にはCPAP治療がうまくできれば、睡眠の質も向上し、自覚症状の改善が期待されます。日中の眠気が改善することで、学業や仕事のパフォーマンスがよくなったり、疲労感がなくなることで活動性も向上することが期待できます。パートナーからも、いびきや呼吸が止まるのがなくなったよ、と言われるのもなかなかにうれしいものです。
②合併症(基礎疾患)の管理のために治療する方:睡眠時無呼吸は様々な基礎疾患を合併します。代表的なものだと、高血圧、心房細動などの心疾患、糖尿病、夜間頻尿などがあります。もともとこれらの基礎疾患を治療している方で、コントロールがよくない方に、じつは睡眠時無呼吸症候群が合併している方がいます。そのような方に睡眠時無呼吸の治療を行うと、心臓への負担がへることで、血圧が下がったり、心房細動のコントロールがよくなったり、睡眠時無呼吸により引き起こされる夜間の血液中の酸素の低下を防ぐことでインスリン感受性を改善し、糖尿病のコントロールを改善することが期待できます。また睡眠の質を向上させ、夜に目が覚める頻度を減らすことで、結果的に夜間頻尿も改善することが期待されます。基礎疾患のコントロールがうまくいかない方は、一度睡眠時無呼吸の存在も疑ってください。
③予防や生命予後のために治療する方:予防、未病の観点から治療に取り組む場合です。睡眠時無呼吸の方でCPAPをきちんと使用すれば高血圧の発症を予防できる可能性が指摘されています。また先に記した理由により睡眠時無呼吸は、糖尿病の発症にも一部関与している可能性が指摘されています。男性においては、重症な睡眠時無呼吸の場合、虚血性心疾患や心不全の発症にもかかわってくることがわかっています。そのため、生命予後的な観点からCPAPの治療効果が期待できそうですよね。しかし現時点では予後を変えることができるという報告と、予後は変わらないという報告があり、一定の見解には至っておりません。いずれにしろCPAP治療だけですべての生活習慣病のリスクを無くすことはできず、適切な治療と、肥満の方は適正体重への減量が必要になります。
④運転や仕事中の事故のリスクを考えて治療する方:自動車運転や機械の操作中の眠気は重大な事故のリスクになります。そういったことを仕事にしている方は、たとえ自覚症状が乏しくても、無自覚の眠気が存在していることがあります。少しのミスが命に直結する仕事をしている方は、自分のためにも家族や周りの方のためにも、しっかりと治療を継続して、事故を防ぐことが必要ではないでしょうか。
いかがだったでしょうか。自分にとっての「睡眠時無呼吸の治療目的」がみつかったでしょうか。検査や治療には時間もお金もかかりますが、無理のない範囲で、あなたの目的にあった治療を選択していくのはいかがでしょうか。
「もしかして無呼吸?」と思ったら、一度相談してください。一緒に最適な方法を考えていきましょう。
